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自己愛性人格障害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
自己愛性人格障害(じこあいせいじんかくしょうがい、Narcissistic Personality Disorder)とは、ありのままの自分を愛せず、自分は優越的で素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込む人格障害であるとされるが、過度に歪んだルールである内的規範が弱いケースであるため、精神病的に扱われる事もある。
概要 [編集]
境界性人格障害とセットにして扱われる事もあるが、自己愛性人格障害の方が内的規範は比較的高いとされる。また、境界性人格障害の回復期には、一過性の自己愛性人格障害を経るケースが多いという報告もあり、より安定した状態であるとも考えられる。これとは逆に、自己愛型防衛に失敗した自己愛性人格障害の患者が、境界性人格障害様の状態を呈した例も報告されている。自己愛性人格障害はどちらかと言うと男性に多いとされる。WHOのICD-10では正式な精神障害としては採用されていない。
- 境界性人格障害でも原因として日本では過保護、アメリカでは虐待が多いという指摘があるが、自己愛性人格障害に関しても似たような言説がある。しかし、果たして本当にそうなのかは専門家の間ではコンセンサスが取れていない。過保護が虐待の可能性もあるという指摘もある上、境界性人格障害でも脳の脆弱性が問題となっているようにそうした生理学的要因も考えられる。
- 主に虐待としては暴力ではなく、多忙な親に放置される、無視される等の不満が原因である場合が多い。
- 実際に社会的に評価されたり、ルックスや家柄が良い、IQが高い等、常に多大な賞賛を浴びる状態が幼少期から続く、など本人の素質よりも周囲の行動によって自己愛性人格障害になる場合が多い。
- 自己愛性人格障害の万能感は母子関係によってさらに強化されることがある。境界例的な親自身や周りの家族や友人が見捨てられる不安から、子どもを甘やかす等である。
臨床像 [編集]
- 内的には不安定であるにもかかわらず、外見はむしろ正常。「頭がいい」「仕事ができる」「表現力がある」「人づきあいがうまい」「美人(ハンサム)である」などの長所がある。そのため、彼らが不適応行動を起こしたとき、周囲の人は意外な感じを持つことが稀ではない。
- 自分について素晴らしい理想的な自己像(誇大的自己)を抱き、自分は他人より優れた能力を持っているとか、自分は特別だと思い込んでいる。うぬぼれが強い。そして、誇大的な自己像を現実化しようと絶えず努力している。次から次へと際限なく成功・権力・名声・富・美を追い求める。
- その背後で、常に深刻な不安定感や頼りなさを経験し、本質的には他者依存的である。自尊心を維持するために、絶えず周囲からの称賛・好意・特別扱いを得ようとする(アルコール依存症患者が酒を求めるように)。あるいは、自分が理想とするような権力や能力のある人に頼り、まるで自分がその人であるかのように考えたり振る舞ったりする。
- 妬み・羨望がとても強く、自分が持ちたい、成し遂げたいと思っているものを他人が持っている、成し遂げていると感じ、内心あるいは外見上その人に怒りや憎しみを持ったり、自分の不運を嘆く。他人の失敗を喜ぶ。
- 自己肯定感や自尊心が高まっているという感覚を、一定の期間維持することができる。この感覚が自分を支配しているとき、自分が傷ついたという、弱い一面を持っていることにほとんど気付かない。しかし、誇大的な自己像が傷つけられるような体験をすると、一転して自分はだめだ、価値がない、無能だと感じる。自分についてもある一つの体験についても、よい面もあれば悪い面もあるといったとらえ方ができない。
- 自分に向けられた非難や批判に対し、怒りや憎しみを持つか、屈辱感や落胆を経験する。これらの感情は必ずしも表面にあらわれず、内心そのように感じているということがしばしば。自分に言い聞かせて自分を慰めることができない。誰か他の人に慰め、認めてもらわないと、自分を維持できない。失敗について本当に反省したり、そのときのつらさや痛みを認識する能力に欠けている。失敗(あるいは批判)から新しく何かを学ぶことができない。しかし、能力のある自己愛者は、ほめられ認めてもらうために、自分を駆り立て休むことなく努力し、誇大自己を満足させようとする。これは、本人にとっては残酷な作業であるが、社会的には成功する。能力がない自己愛者は、より退行した形で他者からの是認を求めようとする。
- 他者についての評価が理想化と軽蔑との間を極端に揺れ動く。他者についても自分同様、長所と欠点を同時に認識してより深い統合的な理解を持つことができない。従って、対人関係は「相手が理想的・搾取的・サディスティックで、自分が無力・服従的・マゾキスティック」というパターンをとる。
- 誇大的な自己像を思い描き、その空想的な思い込みの世界に浸っている。他者と関係を持つにしても、それは自分の自尊心を支えるために人を利用しているにすぎない。本当の意味で他者に共感したり、思いやりを持ったり、感謝したりすることができない(もっとも言語的表現力がしばしばあるので、うわべだけの思いやりを示すことに長けている)。表面的な適応はさておき、他者との現実的な信頼関係を持つことができない。 Cf. 自己-対象(self-object):自己愛者の誇大自己(grandiose self)や自尊心を満たしてくれるような外部の人
診断基準 [編集]
DSM-IVでは誇大な感覚、限りない空想、特別感、過剰な賞賛の渇求、特権意識、対人関係における相手の不当利用、共感の欠如、嫉妬、傲慢な態度のうち5つ以上が当てはまることで示されるとされている。
- 自己の重要性に関する誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)
- 限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
- 自分が"特別"であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達に(または施設で)しか理解されない、または関係があるべきだ、と信じている。
- 過剰な称賛を求める。
- 特権意識、つまり、特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。
- 人間関係で相手を不当に利用する。つまり、自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
- 共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気付こうとしない。
- しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
- 尊大で傲慢な行動、または態度。
要点部分 [編集]
- 5つ以上が当てはまると自己愛性人格障害の可能性がある。
研究 [編集]
- ①フロイト 愛情対象の選択 依存型:自分を保護し養育してくれる対象を選ぶ
- ナルシシズム型:対象の中に自分自身を見出しそれに愛情を向ける
- ナルシシズムの定義:自己に対してのみ愛情を集中させる心的態度であり、リビドーが自我に逆流してしまった状態
- 発達図式⇒〈自体愛(オートエロテリズム)→自己愛→対象愛〉
- こうして移行、達成して初めて個としての自立する。
- 自己愛は発達途上の未熟なもの。
- ②コフート
- 自己愛転移-鏡転移:治療者が自分のことを理解をもって受け入れ愛してくれているのだと感じ、それまで秘かに抱いていた誇大的な自己を治療者に見せるようになることこと。
- 病因
- 母親の意にかなう時だけは子どもの自己愛が受け入れられるか、意にそわない場合は拒絶されるといった母子関係がそこにあり、子どもの誇大的な自己が、その時点でストップしたまま残ってしまっている(欠陥状態)。
- 治療
- 母親によるほどよい受け入れ。
- 分類
- 誇大的で要求がましい自信過剰タイプ。
- 自己評価が低く羞恥傾向があり、しばしば心身不全感を訴えるタイプ。
- (共通点)自己が満たされない空虚感と傷つきやすさ。
- 再び傷つけられることへの強い怒りを示す傾向がある点。
- ③カーンバーグ
- 病因:子どもの体質的な羨望の強さによるもの。また、それを補おうと母親が特別な子ども扱いをすること。
- 治療:内的な貪欲さを患者自身が認め受け入れていくこと。
- 分類:幼児的自己愛…現実的。愛情、信頼、依存、暖かさ。
- 病的自己愛…非現実的。依存はみられない。無遠慮で冷たい。
- 相手に対する羨望や、認め難い依存欲求を防衛するために、それを外界へ投影して相手を軽蔑・脱価値化し、一方で他者に依存する必要のない満ち足りた存在であると感じようとする。
日本における臨床像の治療過程 [編集]
- 臨床像:自己評価の低さ、抑うつ感、引きこもり。非常に傷つきやすい。
- ―(治療)→誇大的になり自己愛転移。誇大的な自己や、治療者への期待に対し、治療者が十分に応えられないでいると、傷つき、怒る。
- ☆このとき、治療者は脱価値化され無力感を味わわされる。この無力感は、もともと患者が傷ついていた時に味わっていたもので、それに耐え切れなくなって治療者の中に投げかけてきている。従って、治療者は患者の自己愛の傷つきに共感を示し続けることが大切。
治療 [編集]
- 精神分析
- 認知療法
- 薬物療法…抗うつ剤(うつ病圏で受診が多いため)
- リチウム(気分変動がよくみられるため)
疫学 [編集]
- 一般人口では1%以下。
- 病院患者の中では2~16%。
- 女性<男性 50~70%は男性。
経過・予後 [編集]
- 思春期に診断されることは稀。大人になってから。…青年期に至って出来あがる
- 人格障害で、長く続くもの。
- 慢性的で治療困難。自分の美しさや力、若さは失われていくものだけに一層自己愛にしがみつくこともある。
- 中年期の危機を迎えやすい。
鑑別診断・合併症 [編集]
- 境界性人格障害との区別→自己愛性には情緒的無関心がみられる。
- 強迫性人格障害→自己愛性の方が、共感性・関係性が低い。
- 妄想性人格障害→これには幼児的万能感はない。
- 合併症:気分変調障害、大うつ病、躁病、拒食症、薬物依存。
- 演技性人格障害、反社会性人格障害、妄想性人格障害。
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