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人格障害 (じんかくしょうがい、英: Personality disorder)とは精神医学において極端な考えや行いにより社会への適応を著しく脅かす人格的な状態を言う。
従来の人格異常や精神病質の後身にあたる概念で、性格障害と呼ばれることもある。人格障害は否定的なニュアンスが強い事から、近年はパーソナリティ障害と呼ばれる事が多い。なお、日本精神神経学会が2008年5月に、人格障害をパーソナリティ障害に用語改定をすることを発表している。
概説 [編集]
そもそも人間にはその考え方や行動の方法には明らかな個体差があり、これは個性として尊重されるべきものである。しかしながら極度の自尊や自信喪失、また反社会性や強迫観念などは社会への適応性を失わせるだけでなく、基本的な日常生活や人間関係にも深刻な悪影響を及ぼしうるものである。人格障害の一般的な診断基準は社会的逸脱や柔軟性の欠如、社会的または職業的な領域における機能の障害、生涯にわたる言動の持続性などが挙げられ、これに加えて他の精神疾患や薬物的または生理学的な作用によって引き起こされた症状ではないことも基準である。
人格障害とは「Personality disorder」(パーソナリティ・ディスオーダー)に対する訳語であり、その概念は「病的な個性」、あるいは、「自我の形成不全」 ともいえる状態を指す。精神疾患の一態に含まれるが、その他の精神疾患と比べて慢性的であり全体としての症状が長期に渡り変化しないことに特徴付けられる。ただ、神経症なども治癒するまでに数十年の歳月を要するケースもあり、その辺りの判別も難しい。
自我の形成期における家庭内環境など様々な外的要因が、生まれ持った気質と相俟って一般には思春期以降に表面化する。またこれを「障害」と位置づけるのに批判的な立場もある。そもそも人格に対して「科学的」という名の下に障害と健常を論じるのは適切なのかということである。
ICDによる分類 [編集]
ICD-10では、F60にて人格障害を規定している。
F60 特定の人格障害 [編集]
- 妄想性人格障害 Paranoid personality disorder
- 統合失調質人格障害 Schizoid personality disorder
- 反社会性人格障害 Dissocial personality disorder
- 情緒不安定性人格障害 Emotionally unstable personality disorder
- 演技性人格障害 Histrionic personality disorder
- 強迫性人格障害 Anankastic personality disorder
- 回避性(不安性)人格障害 Avoidant (avoidant) personality disorder
- 依存性人格障害 Dependent personality disorder
付録1の人格障害 [編集]
- 自己愛性人格障害 Narcissistic personality disorder
- 受動-攻撃性(否定的)人格障害 Passive-Aggressive (negativistic) personality disorder
DSMによる分類 [編集]
DSM-IV-TRでは、10種類の人格障害を3つのカテゴリに分け規定している。
クラスターA [編集]
風変わりで自閉的で妄想を持ちやすく奇異で閉じこもりがちな性質を持つ。
- 妄想性人格障害 Paranoid personality disorder
- 統合失調質人格障害 Schizoid personality disorder
- 統合失調型人格障害 Schizotypal personality disorder
クラスターB [編集]
感情の混乱が激しく演技的で情緒的なのが特徴的。ストレスに対して脆弱で、他人を巻き込む事が多い。
- 反社会性人格障害 Antisocial personality disorder
- 境界性人格障害 Borderline personality disorder
- 演技性人格障害 Histrionic personality disorder
- 自己愛性人格障害 Narcissistic personality disorder
クラスターC [編集]
不安や恐怖心が強い性質を持つ。周りの評価が気になりそれがストレスとなる性向がある。
- 回避性人格障害 Avoidant personality disorder
- 依存性人格障害 Dependent personality disorder
- 強迫性人格障害 Obsessive-compulsive personality disorder
付録Bの人格障害 [編集]
診断 [編集]
人格障害では、所属文化から著しく偏った内的体験・行動が持続する。しかしその内的体験・行動には柔軟性がなく、かつ広く個人的・社会的状況にわたるため、本人や周囲に苦痛や社会的障害を起こしている。
そのため、「人格障害である」との判断は、文化・社会環境に依存するものであり、同じ状態であっても置かれた環境によっては「人格障害」とは判断されない場合もある。たとえば、相互依存的な文化習慣色が比較的強いとされることの多い日本では、欧米で「依存性人格障害」として定義づけられている状態を「病的」とみなさない事が多いとされる。無論個人による見解の相違もあり、障害と見做すかどうかの絶対的基準は無い。
人格障害は個々人の持っている「性格的な特徴」が尖鋭化し、社会生活をうまく営めない、あるいは自他に危険を及ぼすほどになったものであると言える。なお、パーソナリティの歪みは存在しても、人格障害ほど重くない場合は人格傾向(パーソナリティ・トレイト)とかつては呼ばれていた。
人格発達が不完全な未成年の患者では、いずれかの人格障害の傾向を示すことが珍しくない。このため、人格障害の診断は、患者の年齢が幼いほど慎重になる必要がある。[1]。
また、統合失調症や気分障害などの精神疾患では、人格障害の病像を示すこともあるため、鑑別に注意しなくてはならない[2]。
DSMの診断の問題 [編集]
DSMにおいては、各疾患においてA・B・Cの診断基準が示され、「A~C全てが当てはまる場合」その精神疾患であると診断される。 A・Bは具体的な病像が列挙されるが、C基準は「その症状が原因で職業・学業・家庭生活に支障を来している」となっている。C基準が無ければ、世間の誰もがDSMに挙げられたいずれかの精神疾患の基準を満たしてしまうからである。特に人格障害においてはその傾向が強い。
本書には、「DSM-IVは、臨床的、教育的、研究的状況で使用されるよう作成された精神疾患の分類である。診断カテゴリー、基準、解説の記述は、診断に関する適切な臨床研修と経験を持つ人によって使用されることを想定している。重要な事は、研修を受けていない人にDSM-IVが機械的に用いられてはならない事である。DSM-IVに取り入れられた各診断基準は指針として用いられるが、それは臨床的判断によって生かされるものであり、料理の本のように使われるものではない。」と書かれており、非専門家による使用を禁じている。
もっと根本的なことをいえば、近代精神分析学や近代精神医学が分類・診断を始めたことで、それまでは個性や属性の一つと捉えられていたものが、疾病や障害や症状とされ、治療の対象にされるようになるなど、人間の世界に差別や迫害が持ち込まれることとなった。同性愛がその代表例であるが、人格障害を含めた精神疾患とされているもの全般について同じことが言える。その点、血液型性格診断とも酷似している。また、書店に溢れる心理学や精神医学関係の類書が、一般の人に危うい読まれ方をされているのも事実である。素人が聞きかじりの知識で周囲の人を診断してしまうなど、差別や偏見を広めている面もあるからである。その一例が、M・スコット・ペックの『平気でうそをつく人たち~虚偽と邪悪の心理学~』(草思社 1996年)である。雑誌『諸君』(文藝春秋 1997年8月号)は『「平気でうそをつく人たち」の危ない読まれ方』と題して、その危険性を批判した。
治療 [編集]
治療(人格障害は一種の「性格」であるとも言えることから、「治療」と呼んでいいものか、という意見もある)は、精神分析的精神療法や認知行動療法などの精神療法を中心にして行われる。薬物療法は、合併しているI軸の精神障害の治療や精神症状に対する対症療法として補助的に用いられる。器質性の脳障害に端を発する症状の可能性を含め、治療は基本、多角的に行われる。
一部の人格障害は、30~40歳代までに状態が改善していく傾向(晩熟現象)があるとされている。それは加齢による生理的な物の影響だけではなく、仕事等の社会生活を通じて多様な人々に触れ、世の中には様々な生き方・考え方があると言うことを知り、それを受容する事に依っていると考えられている。
脚注 [編集]
- ^ 精神医学関連の書籍では、18歳未満の患者に対しては人格障害の診断ができないと書かれていることが多いが、DSMでは反社会性人格障害を除いて、一定の条件を満たせば診断を認めているため、実際には可能である。ただし、人格障害は一般社会のみならず、専門家の間においてもスティグマの強いことから、青少年に対する診断を躊躇する精神科医は多い
- ^ 人格障害には過剰診断の傾向があり、若年世代のうつ病を人格障害と誤診してしまうケースが相次いでいる。そのためか、2002年に発行された『American Journal of Psychiatry』では、抑うつ状態の患者に対する人格障害の確定診断は余り行わない方が良いとする意見が出ている。