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自己愛性人格障害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
自己愛性人格障害(じこあいせいじんかくしょうがい、Narcissistic Personality Disorder)とは、ありのままの自分を愛せず、自分は優越的で素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込む人格障害であるとされるが、過度に歪んだルールである内的規範が弱いケースであるため、精神病的に扱われる事もある。
概要 [編集]
境界性人格障害とセットにして扱われる事もあるが、自己愛性人格障害の方が内的規範は比較的高いとされる。また、境界性人格障害の回復期には、一過性の自己愛性人格障害を経るケースが多いという報告もあり、より安定した状態であるとも考えられる。これとは逆に、自己愛型防衛に失敗した自己愛性人格障害の患者が、境界性人格障害様の状態を呈した例も報告されている。自己愛性人格障害はどちらかと言うと男性に多いとされる。WHOのICD-10では正式な精神障害としては採用されていない。
- 境界性人格障害でも原因として日本では過保護、アメリカでは虐待が多いという指摘があるが、自己愛性人格障害に関しても似たような言説がある。しかし、果たして本当にそうなのかは専門家の間ではコンセンサスが取れていない。過保護が虐待の可能性もあるという指摘もある上、境界性人格障害でも脳の脆弱性が問題となっているようにそうした生理学的要因も考えられる。
- 主に虐待としては暴力ではなく、多忙な親に放置される、無視される等の不満が原因である場合が多い。
- 実際に社会的に評価されたり、ルックスや家柄が良い、IQが高い等、常に多大な賞賛を浴びる状態が幼少期から続く、など本人の素質よりも周囲の行動によって自己愛性人格障害になる場合が多い。
- 自己愛性人格障害の万能感は母子関係によってさらに強化されることがある。境界例的な親自身や周りの家族や友人が見捨てられる不安から、子どもを甘やかす等である。
臨床像 [編集]
- 内的には不安定であるにもかかわらず、外見はむしろ正常。「頭がいい」「仕事ができる」「表現力がある」「人づきあいがうまい」「美人(ハンサム)である」などの長所がある。そのため、彼らが不適応行動を起こしたとき、周囲の人は意外な感じを持つことが稀ではない。
- 自分について素晴らしい理想的な自己像(誇大的自己)を抱き、自分は他人より優れた能力を持っているとか、自分は特別だと思い込んでいる。うぬぼれが強い。そして、誇大的な自己像を現実化しようと絶えず努力している。次から次へと際限なく成功・権力・名声・富・美を追い求める。
- その背後で、常に深刻な不安定感や頼りなさを経験し、本質的には他者依存的である。自尊心を維持するために、絶えず周囲からの称賛・好意・特別扱いを得ようとする(アルコール依存症患者が酒を求めるように)。あるいは、自分が理想とするような権力や能力のある人に頼り、まるで自分がその人であるかのように考えたり振る舞ったりする。
- 妬み・羨望がとても強く、自分が持ちたい、成し遂げたいと思っているものを他人が持っている、成し遂げていると感じ、内心あるいは外見上その人に怒りや憎しみを持ったり、自分の不運を嘆く。他人の失敗を喜ぶ。
- 自己肯定感や自尊心が高まっているという感覚を、一定の期間維持することができる。この感覚が自分を支配しているとき、自分が傷ついたという、弱い一面を持っていることにほとんど気付かない。しかし、誇大的な自己像が傷つけられるような体験をすると、一転して自分はだめだ、価値がない、無能だと感じる。自分についてもある一つの体験についても、よい面もあれば悪い面もあるといったとらえ方ができない。
- 自分に向けられた非難や批判に対し、怒りや憎しみを持つか、屈辱感や落胆を経験する。これらの感情は必ずしも表面にあらわれず、内心そのように感じているということがしばしば。自分に言い聞かせて自分を慰めることができない。誰か他の人に慰め、認めてもらわないと、自分を維持できない。失敗について本当に反省したり、そのときのつらさや痛みを認識する能力に欠けている。失敗(あるいは批判)から新しく何かを学ぶことができない。しかし、能力のある自己愛者は、ほめられ認めてもらうために、自分を駆り立て休むことなく努力し、誇大自己を満足させようとする。これは、本人にとっては残酷な作業であるが、社会的には成功する。能力がない自己愛者は、より退行した形で他者からの是認を求めようとする。
- 他者についての評価が理想化と軽蔑との間を極端に揺れ動く。他者についても自分同様、長所と欠点を同時に認識してより深い統合的な理解を持つことができない。従って、対人関係は「相手が理想的・搾取的・サディスティックで、自分が無力・服従的・マゾキスティック」というパターンをとる。
- 誇大的な自己像を思い描き、その空想的な思い込みの世界に浸っている。他者と関係を持つにしても、それは自分の自尊心を支えるために人を利用しているにすぎない。本当の意味で他者に共感したり、思いやりを持ったり、感謝したりすることができない(もっとも言語的表現力がしばしばあるので、うわべだけの思いやりを示すことに長けている)。表面的な適応はさておき、他者との現実的な信頼関係を持つことができない。 Cf. 自己-対象(self-object):自己愛者の誇大自己(grandiose self)や自尊心を満たしてくれるような外部の人
診断基準 [編集]
DSM-IVでは誇大な感覚、限りない空想、特別感、過剰な賞賛の渇求、特権意識、対人関係における相手の不当利用、共感の欠如、嫉妬、傲慢な態度のうち5つ以上が当てはまることで示されるとされている。
- 自己の重要性に関する誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する)
- 限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
- 自分が"特別"であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達に(または施設で)しか理解されない、または関係があるべきだ、と信じている。
- 過剰な称賛を求める。
- 特権意識、つまり、特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。
- 人間関係で相手を不当に利用する。つまり、自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
- 共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気付こうとしない。
- しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
- 尊大で傲慢な行動、または態度。
要点部分 [編集]
- 5つ以上が当てはまると自己愛性人格障害の可能性がある。
研究 [編集]
- ①フロイト 愛情対象の選択 依存型:自分を保護し養育してくれる対象を選ぶ
- ナルシシズム型:対象の中に自分自身を見出しそれに愛情を向ける
- ナルシシズムの定義:自己に対してのみ愛情を集中させる心的態度であり、リビドーが自我に逆流してしまった状態
- 発達図式⇒〈自体愛(オートエロテリズム)→自己愛→対象愛〉
- こうして移行、達成して初めて個としての自立する。
- 自己愛は発達途上の未熟なもの。
- ②コフート
- 自己愛転移-鏡転移:治療者が自分のことを理解をもって受け入れ愛してくれているのだと感じ、それまで秘かに抱いていた誇大的な自己を治療者に見せるようになることこと。
- 病因
- 母親の意にかなう時だけは子どもの自己愛が受け入れられるか、意にそわない場合は拒絶されるといった母子関係がそこにあり、子どもの誇大的な自己が、その時点でストップしたまま残ってしまっている(欠陥状態)。
- 治療
- 母親によるほどよい受け入れ。
- 分類
- 誇大的で要求がましい自信過剰タイプ。
- 自己評価が低く羞恥傾向があり、しばしば心身不全感を訴えるタイプ。
- (共通点)自己が満たされない空虚感と傷つきやすさ。
- 再び傷つけられることへの強い怒りを示す傾向がある点。
- ③カーンバーグ
- 病因:子どもの体質的な羨望の強さによるもの。また、それを補おうと母親が特別な子ども扱いをすること。
- 治療:内的な貪欲さを患者自身が認め受け入れていくこと。
- 分類:幼児的自己愛…現実的。愛情、信頼、依存、暖かさ。
- 病的自己愛…非現実的。依存はみられない。無遠慮で冷たい。
- 相手に対する羨望や、認め難い依存欲求を防衛するために、それを外界へ投影して相手を軽蔑・脱価値化し、一方で他者に依存する必要のない満ち足りた存在であると感じようとする。
日本における臨床像の治療過程 [編集]
- 臨床像:自己評価の低さ、抑うつ感、引きこもり。非常に傷つきやすい。
- ―(治療)→誇大的になり自己愛転移。誇大的な自己や、治療者への期待に対し、治療者が十分に応えられないでいると、傷つき、怒る。
- ☆このとき、治療者は脱価値化され無力感を味わわされる。この無力感は、もともと患者が傷ついていた時に味わっていたもので、それに耐え切れなくなって治療者の中に投げかけてきている。従って、治療者は患者の自己愛の傷つきに共感を示し続けることが大切。
治療 [編集]
- 精神分析
- 認知療法
- 薬物療法…抗うつ剤(うつ病圏で受診が多いため)
- リチウム(気分変動がよくみられるため)
疫学 [編集]
- 一般人口では1%以下。
- 病院患者の中では2~16%。
- 女性<男性 50~70%は男性。
経過・予後 [編集]
- 思春期に診断されることは稀。大人になってから。…青年期に至って出来あがる
- 人格障害で、長く続くもの。
- 慢性的で治療困難。自分の美しさや力、若さは失われていくものだけに一層自己愛にしがみつくこともある。
- 中年期の危機を迎えやすい。
鑑別診断・合併症 [編集]
- 境界性人格障害との区別→自己愛性には情緒的無関心がみられる。
- 強迫性人格障害→自己愛性の方が、共感性・関係性が低い。
- 妄想性人格障害→これには幼児的万能感はない。
- 合併症:気分変調障害、大うつ病、躁病、拒食症、薬物依存。
- 演技性人格障害、反社会性人格障害、妄想性人格障害。
反社会性人格障害
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
反社会性人格障害(はんしゃかいせいじんかくしょうがい、Antisocial Personality Disorder)とは、他者の権利や感情を無神経に軽視する人格障害である。人に対しては不誠実で、欺瞞に満ちた言動をする傾向がある。以前は精神病質人格、社会病質人格(いわゆるサイコパス)と呼ばれていた。この人格障害は男性に多いとされる。
ただし、反社会性人格障害は精神医学的というよりは、社会的価値基準にもとづく診断であるため、これに関する議論は非常に多い。極端な例を挙げると「無謀で残虐な行為」をすると、戦乱時には「英雄」になるが平和時には「危険な殺人者」になるというような社会的評価基準の大きなブレがあり得るということである。
自己愛性人格障害の場合は、自分は優れているのだから人を使って当然だと考えて人を利用するが、それとは異なり、欲しいものを手に入れたり、自分が単に楽しむために行うのが特徴である。人を愛する能力や優しさは欠如しているが、人の顔色を窺って、騙したりする能力には優れているとされる。そのため、表面的には魅力的に見えることも多い。
反社会性人格障害の人は、アルコール依存症、薬物依存、性的逸脱行動、犯罪といった問題を起こしやすい傾向があるとされる。だが、危険なことをするわりには、精神的な弱さが見受けられる場合も多い。反社会性人格障害の人は、家族の内部で過去に反社会的な行動、薬物などの乱用、両親の不仲による離婚、虐待などがあったことが認められることもあり、危険な行動はそれを隠すためであるとも考えられる。また、反社会性人格障害の人は一般の人に比べて寿命が短い傾向があるといわれる。[要出典]
また、事故等で脳に損傷を受け反社会性人格障害を発症する場合があるが、これは事故による前頭前皮質の機能不全で起こるものと推測される。
DSM-IVでは、18歳以上になって初めてこの病気は診断されるとされる。
治そうという気持ちが少ないため、治療がなかなかうまくいかない上、トラブルを起こすことも多く、治療スタッフの負担が大きくなることから、治療機関によっては反社会性人格障害の患者を嫌がることも多いようである。
アスペルガー症候群
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
対人関係の障害や、他者の気持ちの推測力、すなわち心の理論の障害が原因の1つと考えられている。特定の分野への強いこだわりを示したり、運動機能の軽度な障害も見られたりする。しかし、カナータイプ(伝統的な自閉症とされているもの)に見られるような言語障害は、比較的少ない。
歴史
- 1944年、オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーによって初めて報告されたが、第二次世界大戦のため、その論文は戦勝国側では注目されていなかった。
- 1981年、イギリスの医師ローナ・ウィングがアスペルガー症候群の発見を紹介[1]。
- 1990年代になり世界中で徐々に知られるようになった。しかし、日本ではドイツ精神医学の影響が強かったことから、ローナ・ウィングの紹介以前に知られていた[2]。
発症の原因については自閉症#原因を参照のこと。近年、脳の先天的な機能障害と理解されるようになった。
概要
「アスペルガー症候群の定義」や「アスペルガー症候群と高機能自閉症は同じものか否かについて」は、諸説あるが、日本国内においては高機能自閉症(知的障害のない、あるいはほとんどない自閉症)と区別されることは少ない(アスペルガー症候群は、知的障害の有無を問わず、言語障害のない自閉症を指すという研究者もいる)。
自閉症の軽度例とも考えられているが、知的障害でないからといっても、社会生活での対人関係に問題が起きることもあり、知的障害がないから問題がほとんどないとすることはできない。知能の高低については、相対的に低いよりは高い方が苦しみが軽いという見解がある。日本では従来、アスペルガー症候群への対応が進んでいなかったが、2005年4月1日施行の発達障害者支援法によりアスペルガー症候群と高機能自閉症に対する行政の認知は高まった。しかし、依然社会的認知は低く、カナータイプより対人関係での挫折などが生じやすい環境は変わっていない。
また、注意欠陥・多動性障害(AD/HD)や学習障害(LD)などを併発している場合もある。このような合併障害があることと、「アスペルガー」や「自閉症」という言葉には偏見があることなどを理由に、まとめて「広汎性発達障害(PDD)」や「発達障害」と呼ぶ医師も増えている。なお自閉症スペクトラムの考え方では、定型発達者とカナータイプ自閉症の中間的な存在とされている。
特徴
自閉症スペクトラムに分類されている他の状態同様、アスペルガー症候群も性別との相関関係があり、全体のおよそ75%が男性である。ただし、症状が現れずに潜在化(治癒ではない)する場合も勘案せねばならず、この数値にはある程度の疑問も残る。
コミュニケーション上の主な特徴
非自閉症の人(NT:neurotypical, 典型的な精神の人)は、他者の仕草や雰囲気から多くの情報を集め、相手の感情や認知の状態を読み取れる。しかし自閉症の人はこの能力が欠けており、心を読むことが難しい(心の理論)。そのような、仕草や状況、雰囲気から気持ちを読み取れない人は、他人が微笑むことを見ることはできても、それが意味していることが分からない。また最悪の場合、表情やボディランゲージなど、その他あらゆる人間間のコミュニケーションにおけるニュアンスを理解することができない。多くの場合、彼等は行間を読むことが苦手あるいは不可能である。つまり、人が口に出して言葉で言わなければ、意図していることが何なのかを理解できない。しかし、これはスペクトラム状(連続体)の特徴である。表情や他人の意図を読み取ることに不自由がないアスペルガーの人もいる。彼らはしばしばアイコンタクトが困難である。ほとんどアイコンタクトをせず、それをドギマギするものだと感じる場合が多い。一方、他人にとって不快に感じるくらいに、じっとその人の目を見つめてしまうようなタイプもいる。相手からのメッセージ(アイコンタクトなど)が何を示すのか、彼等なりに必死に理解しようと努力するのだが、この障害のために相手の心の解読が困難で、挫折してしまうパターンが多い。例えば、初対面の人に挨拶をする際に、社会的に受け入れられている方法で自己紹介をするのではなく、自分の関心のある分野に関して一人で長々と話し続けるような行動をとる場合がある。
コミュニケーション上の特徴が障害とは限らない
症候群という表現は、アスペルガーの人は障害者(異常)で、その他の者は定型発達者(正常)というように感じる。しかし、特徴の見かたを変えると、客観的で、事実を正確に理解して表現することに長けているともいえる。以下に挙げられている「言葉を額面どおりに受け取る」や「些細なことにこだわる」という特徴も「厳正に規則を守る」と言い換えることもできる。例えば、パソコンのように順序だったものや規則的なものに興味を持てば、才能を開花させることも可能である。また「行間を読むことが苦手」というのは、行間を読まないコミュニケーション方法ということである。それは「行間を読むコミュニケーション(アスペルガー以外の多数派)」に対しての「少数派の方法」という関係である。
つまり、少数派であるために、多数派の人と自由にコミュニケーションが取れない、或いはコミュニケーション方法の違いを理解されないという問題が、社会生活での障壁となりやすい。
主な問題点
アスペルガーの人は、多くのアスペルガー以外の人と同様に、またはそれ以上に強く感情の反応をするが、何に対して反応するかは常に違う。 彼等が苦手なものは、「他人の情緒を理解すること」であり、自分の感情の状態をボディランゲージや表情のニュアンス等で他人に伝えることである。多くのアスペルガーの人は、彼等の周りの世界から、期せずして乖離した感覚を持っていると報告されている。
例えば教師が、アスペルガーの子供に(宿題を忘れたことを問いただす意味で)「犬があなたの宿題を食べたの?」と尋ねたら、その子はその表現が理解できなければ押し黙り、教師に自分は犬を飼っておらず、普通犬は紙を食べないことを説明する必要があるのかどうか考えようとする。つまり教師が、表情や声のトーンから暗に意味している事を理解できない。 先生は、その子が傲慢で悪意に満ち、反抗的であると考え、フラストレーションを感じながら歩き去っていくかもしれない。その子はその場で何かがおかしいとフラストレーションを感じながら、そこへ黙って立ち尽くすことだろう。
アスペルガーの子供は、言葉で言われたことは額面どおり真に受けることが多い。親や教師が励ますつもりで「テストの点数などさほど大事ではない」などとあまりきれい事ばかり聞かせたり、反対に現実的なことばかり教えたりすると、真に受けてしまい、持つべき水準からかけ離れた観念を持ってしまう危険性がある。彼らは、“大人の発言には掛け値がある”という疑いを持ちにくく、持ったとしても、はたして掛け値がどのくらいなのかを慮ることが困難であるため、発言者の願望を載せて物事を大げさに表現すると狙った効果は効き過ぎることになる。この傾向を助長する要因の一つに、通常であれば日常生活で周囲の人の会話などから小耳に挟んで得ているはずの雑多な情報を、アスペルガーの人は(アスペルガー特有の“興味の集中”のため)“聞こえてはいる”ものの適切に処理することができないことが考えられる。
限定された興味、関心
アスペルガー症候群は興味の対象に対する、きわめて強い、偏執的ともいえる水準での集中を伴うことがある。 例えば、1950年代のプロレスや、アフリカ独裁政権の国歌、マッチ棒で模型をつくることなど、社会一般の興味や流行にかかわらず、独自的な興味を抱くケースが見られる。輸送手段(鉄道・自動車など)、コンピューター、数学、天文学、地理、恐竜、法律等は特によく興味の対象となる。しかし、これらの対象への興味は、一般的な子供も持つものである。アスペルガー児の興味との違いは、その異常なまでの強さである。アスペルガー児は興味対象に関する大量の情報を記憶することがある。
また一般的に、順序だったもの、規則的なものはアスペルガーの人を魅了する。これらへの興味が物質的あるいは社会的に有用な仕事と結びついた場合、アスペルガーの人は実り豊かな人生を送る可能性がある。 例えば、コンピューターに取りつかれた子供は大きくなって卓越したプログラマーになるかもしれない。それらと逆に、予測不可能なもの、不合理なものはアスペルガーの人が嫌う対象となる。
彼らの関心は生涯にわたることもあるが、いつしか突然変わる場合もある。 どちらの場合でも、ある時点では通常1個から2個の対象に強い関心を持っている。 これらの興味を追求する過程で、彼等はしばしば非常に洗練された知性、ほとんど頑固偏屈とも言える集中力、一見些細に見える事実に対する膨大な(時に、写真を見ているかのような詳細さでの)記憶力などを示す。 ハンス・アスペルガーは彼の幼い患者を『小さな教授』と呼んでいた。なぜならその13歳の患者は、自分の興味を持つ分野に、網羅的かつ微細に入るまでの、大学教授のような知識を持っていたからである。
臨床家の中には、アスペルガーの人がこれらの特徴を有することに全面的には賛成しない者もいる。たとえばWing と Gillberg はアスペルガーの人が持つ知識はしばしば理解に根付いた知識よりも表層だけの知識の方が多い場合がある、と主張している。しかし、このような限定はGillbergの診断基準を用いる場合であっても診断とは無関係である。
アスペルガーの児童および成人は自分の興味のない分野に対しての忍耐力が弱い場合が多い。 学生時代、「とても優秀な劣等生」と認識された人も多い。これは、自分の興味のある分野に関しては他人に比べて遙かに優秀であることが誰の目にも明らかなのに、毎日の宿題にはやる気を見せないからである(時に興味のある分野であってもやる気を見せない、という意見もあるが、それは他人が同じ分野だと思うものが本人にとっては異なる分野だからだと思われる。例えば、数学に興味があるが答えが巻末に載っている受験数学を自分で解くことには興味が持てない、日本語の旧字体に興味はあるが国語の擬古文の読解問題には興味が持てない、など)。ノートやテスト用紙に文字を手書きすることを、とても面倒で苦痛に感じる子供もいる。一方、反対に学業において他人に勝つことに興味を持ったために優秀な成績を取る人も居り、これは診断の困難さを増す。他人に自分の主張を否定されることに強く嫌悪感を覚えるという人もいる。このことは学校などで学習上の大きな障害となる。例えば教師が生徒にいきなり答えさせ、生徒:「これは○○だと思います」先生:「 違うよね、これは××だよ」というように、否定して答えやヒントを教えるような方法はアスペルガーの人には相当な苦痛と感じることとなる。 しかし多くの成人は、忍耐力のなさと動機の欠如などを克服し、新しい活動や新しい人に会うことに対する耐性を発達させている。
アスペルガーの人は高い知能と社交能力の低さを併せ持つと考える人もいる。
このことは子供時代や、大人になってからも多くの問題をもたらす。 アスペルガーの子供はしばしば学校でのいじめの対象になりやすい。なぜなら彼等独特の振るまい、言葉使い、興味対象、身なり、そして彼等の非言語的メッセージを受け取る能力の低さを持つからである。彼等に対し、嫌悪感を持つ子供が多いのもこのことが要因だろう。このため教育の場である学校において、今後はサポート体制の確立や自立の支援、他の子供への理解を深めさせる、といった総合的な支援策が必要になるだろう。
「アスペルガー」という一つのカテゴリーであっても、人によって障害の度合いは千差万別である。例えば学校の友達と上手く話せたり、話を上手くまとめられるなど、至って軽度な場合もある。また、上手く話せず、それでもよい友達に巡り会えたから必死で耐えている、というように、自閉度が中度–重度なこともある。 この障害は、カナータイプの自閉症などと違い、一見「定型発達者」に見えるために、周りからのサポートが遅れがちになったりすることが問題となっている。
アスペルガーの人は他の様々な感覚、発達、あるいは生理的異常を示すこともある。その子供時代に細かな運動能力に遅れをみせることが多い。特徴的なゆらゆら歩きや小刻みな歩き方をし、腕を不自然に振りながら歩くかもしれない。手をぶらぶら振るなど(常同行動)、衝動的な指、手、腕の動きもしばしば認められる。
アスペルガーの子供は感覚的に多くの負荷がかかっていることがある。騒音、強い匂いに敏感だったり、あるいは接触されることを嫌ったりする。例えば頭を触られたり、髪をいじられるのを嫌う子もいる。この問題は、例えば、教室の騒音が彼等に耐えられないものである場合等、学校での問題をさらに複雑にすることもある。 別の行動の特徴として、やまびこのように、言葉やその一部を繰り返す反響言語(エコラリア)と呼ばれる症状を示す場合がある。
性同一性障害との関連性
アスペルガー症候群は健常者に比べて性的違和を訴える人の割合が多く、性同一性障害との関連が指摘されている。アスペルガー症候群は胎児期のホルモンバランス異常(男性ホルモンの過剰分泌など)が指摘されており、性自認などの性形成にも影響を与える可能性がある。また、親が高齢などの原因で脳の器質異常が先天的に併発しやすい可能性や疎外感などから異性に対し同一性を求めるなどの説もある。
アスペルガー症候群への社会的偏見
2001年5月にソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント (米国)が「アスペルガー 死の団欒」と名づけて発売する予定だった外国映画(原題は「Absence of the Good」、1999年のアメリカのテレビ映画)が、抗議を受けて発売中止となった。原題にはアスペルガーという単語は使われておらず(直訳しても「良心の不在」程度にしかならない)、登場人物にもアスペルガー症候群らしい人物は存在しないと考えられる[3]。
また、2008年頃から相次いで、医師によるアスベルガー症候群の解説書が刊行されている事について、医師たちの執筆動機の一つには、あたかもアスペルガー症候群の人物が犯罪を起こしやすいかの様な誤解や偏見が広まってしまった事を是正する事がある。この背景には一部の少年事件の加害者がアスペルガー症候群だと報道された事が挙げられる。本来、アスペルガー症候群の人たちは、理解できる規律を良く守り、犯罪とは対極に居ると一部では言われている。[4]
実際、アスペルガー症候群の人物が犯罪を起こしやすいというデータはなく、鑑別所や少年院の中にも2%程度しか該当者は居ないとされている。また、犯罪を起こしたケースについても、対人コミュニケーションスキルの不足から、当人が世の中の仕組みを良く理解できていない事によって軽微な犯罪が引き起こされてしまったケースが殆どであると言われている。[5]
アスペルガー症候群の援助
アスペルガー症候群の人は、現代社会に対し、非常に適応しにくい困難さをかかえている。あちこちで衝突が起こり、引きこもりになっていることも少なくない。自分自身に強いコンプレックスを抱え、自殺志願を持つ人も決して少なくない。そういうアスペルガー症候群の人に援助をする必要が急がれている。発達障害者支援センターなどをはじめ、少しでもアスペルガー症候群の人が社会で暮らしやすいよう、作業所やデイケアなどの設備を整える必要が早急に問われている。最も必要なことがこの障害を理解し、受け入れる環境的素地を作り上げることである。
アスペルガー症候群の著名人
自閉的な特徴を持っていた著名人は多く、研究者や偉人に対する「変わり者の天才」というステレオタイプの形成を助けてきた。ただし、アスペルガー症候群のような高機能な自閉症の存在が知られるのはここ数十年、特に一般に認知されてきたのは1980年代以降であるため、生前に診断や検査を受けた者は例外的である。疑いがあるが、診断されなかった者たちについて残された記録をもって推測する事の是非について論争が絶えない。
アスペルガー症候群の診断を受けている著名人
関連項目
参考文献
- アミー・クライン (編), 小川真弓 (翻訳)、『総説アスペルガー症候群』、明石書店、2008年5月、ISBN 978-4-7503-2779-2
- 今村志穗(原作),ごとう和(画)、『晴れときどきアスペルガー』、講談社、2009年2月13日、ISBN 978-4-06-375655-5 アスペルガー症候群と診断された家族をもつ著者の体験を元にしたコミック
脚註
- ^ Wing, Lorna. Asperger syndrome: a clinical account.
- ^アスペルガー症候群を知っていますか
- ^発売中止に関するお詫び
- ^ 大人のアスペルガー症候群 佐々木正美・梅永雄二著 講談社刊
- ^ ササッとわかる「大人のアスペルガー症候群」との接し方 加藤進昌著 講談社刊
- ^ 「火星の人類学者」 オリバー・サックス著
- ^ヴァインズのクレイグ、自閉症の一種と診断 - BARKS ニュース
- ^ 「炎上上等!? お騒がせブログアイドル・倉持結香の本音に迫る」 日刊サイゾー、2008年4月28日。
- ^ Lane, Megan (2004年6月2日). "What Asperger's syndrome has done for us". BBC.co.uk. 2007-11-08 閲覧。
- ^ Herera, Sue (2005年2月25日). "Mild autism has 'selective advantages'". MSNBC. 2007-11-08 閲覧。
- ^http://www.mondostars.com/entertainment/stevenspielberg.html
- ^http://www.smh.com.au/news/Health/A-syndrome-for-success/2005/06/09/1118123948555.html
- ^ "A Salute to Japanese Game Designers". Ampednews.com. 2007-11-08 閲覧。
人格障害 (じんかくしょうがい、英: Personality disorder)とは精神医学において極端な考えや行いにより社会への適応を著しく脅かす人格的な状態を言う。
従来の人格異常や精神病質の後身にあたる概念で、性格障害と呼ばれることもある。人格障害は否定的なニュアンスが強い事から、近年はパーソナリティ障害と呼ばれる事が多い。なお、日本精神神経学会が2008年5月に、人格障害をパーソナリティ障害に用語改定をすることを発表している。
概説 [編集]
そもそも人間にはその考え方や行動の方法には明らかな個体差があり、これは個性として尊重されるべきものである。しかしながら極度の自尊や自信喪失、また反社会性や強迫観念などは社会への適応性を失わせるだけでなく、基本的な日常生活や人間関係にも深刻な悪影響を及ぼしうるものである。人格障害の一般的な診断基準は社会的逸脱や柔軟性の欠如、社会的または職業的な領域における機能の障害、生涯にわたる言動の持続性などが挙げられ、これに加えて他の精神疾患や薬物的または生理学的な作用によって引き起こされた症状ではないことも基準である。
人格障害とは「Personality disorder」(パーソナリティ・ディスオーダー)に対する訳語であり、その概念は「病的な個性」、あるいは、「自我の形成不全」 ともいえる状態を指す。精神疾患の一態に含まれるが、その他の精神疾患と比べて慢性的であり全体としての症状が長期に渡り変化しないことに特徴付けられる。ただ、神経症なども治癒するまでに数十年の歳月を要するケースもあり、その辺りの判別も難しい。
自我の形成期における家庭内環境など様々な外的要因が、生まれ持った気質と相俟って一般には思春期以降に表面化する。またこれを「障害」と位置づけるのに批判的な立場もある。そもそも人格に対して「科学的」という名の下に障害と健常を論じるのは適切なのかということである。
ICDによる分類 [編集]
ICD-10では、F60にて人格障害を規定している。
F60 特定の人格障害 [編集]
- 妄想性人格障害 Paranoid personality disorder
- 統合失調質人格障害 Schizoid personality disorder
- 反社会性人格障害 Dissocial personality disorder
- 情緒不安定性人格障害 Emotionally unstable personality disorder
- 演技性人格障害 Histrionic personality disorder
- 強迫性人格障害 Anankastic personality disorder
- 回避性(不安性)人格障害 Avoidant (avoidant) personality disorder
- 依存性人格障害 Dependent personality disorder
付録1の人格障害 [編集]
- 自己愛性人格障害 Narcissistic personality disorder
- 受動-攻撃性(否定的)人格障害 Passive-Aggressive (negativistic) personality disorder
DSMによる分類 [編集]
DSM-IV-TRでは、10種類の人格障害を3つのカテゴリに分け規定している。
クラスターA [編集]
風変わりで自閉的で妄想を持ちやすく奇異で閉じこもりがちな性質を持つ。
- 妄想性人格障害 Paranoid personality disorder
- 統合失調質人格障害 Schizoid personality disorder
- 統合失調型人格障害 Schizotypal personality disorder
クラスターB [編集]
感情の混乱が激しく演技的で情緒的なのが特徴的。ストレスに対して脆弱で、他人を巻き込む事が多い。
- 反社会性人格障害 Antisocial personality disorder
- 境界性人格障害 Borderline personality disorder
- 演技性人格障害 Histrionic personality disorder
- 自己愛性人格障害 Narcissistic personality disorder
クラスターC [編集]
不安や恐怖心が強い性質を持つ。周りの評価が気になりそれがストレスとなる性向がある。
- 回避性人格障害 Avoidant personality disorder
- 依存性人格障害 Dependent personality disorder
- 強迫性人格障害 Obsessive-compulsive personality disorder
付録Bの人格障害 [編集]
診断 [編集]
人格障害では、所属文化から著しく偏った内的体験・行動が持続する。しかしその内的体験・行動には柔軟性がなく、かつ広く個人的・社会的状況にわたるため、本人や周囲に苦痛や社会的障害を起こしている。
そのため、「人格障害である」との判断は、文化・社会環境に依存するものであり、同じ状態であっても置かれた環境によっては「人格障害」とは判断されない場合もある。たとえば、相互依存的な文化習慣色が比較的強いとされることの多い日本では、欧米で「依存性人格障害」として定義づけられている状態を「病的」とみなさない事が多いとされる。無論個人による見解の相違もあり、障害と見做すかどうかの絶対的基準は無い。
人格障害は個々人の持っている「性格的な特徴」が尖鋭化し、社会生活をうまく営めない、あるいは自他に危険を及ぼすほどになったものであると言える。なお、パーソナリティの歪みは存在しても、人格障害ほど重くない場合は人格傾向(パーソナリティ・トレイト)とかつては呼ばれていた。
人格発達が不完全な未成年の患者では、いずれかの人格障害の傾向を示すことが珍しくない。このため、人格障害の診断は、患者の年齢が幼いほど慎重になる必要がある。[1]。
また、統合失調症や気分障害などの精神疾患では、人格障害の病像を示すこともあるため、鑑別に注意しなくてはならない[2]。
DSMの診断の問題 [編集]
DSMにおいては、各疾患においてA・B・Cの診断基準が示され、「A~C全てが当てはまる場合」その精神疾患であると診断される。 A・Bは具体的な病像が列挙されるが、C基準は「その症状が原因で職業・学業・家庭生活に支障を来している」となっている。C基準が無ければ、世間の誰もがDSMに挙げられたいずれかの精神疾患の基準を満たしてしまうからである。特に人格障害においてはその傾向が強い。
本書には、「DSM-IVは、臨床的、教育的、研究的状況で使用されるよう作成された精神疾患の分類である。診断カテゴリー、基準、解説の記述は、診断に関する適切な臨床研修と経験を持つ人によって使用されることを想定している。重要な事は、研修を受けていない人にDSM-IVが機械的に用いられてはならない事である。DSM-IVに取り入れられた各診断基準は指針として用いられるが、それは臨床的判断によって生かされるものであり、料理の本のように使われるものではない。」と書かれており、非専門家による使用を禁じている。
もっと根本的なことをいえば、近代精神分析学や近代精神医学が分類・診断を始めたことで、それまでは個性や属性の一つと捉えられていたものが、疾病や障害や症状とされ、治療の対象にされるようになるなど、人間の世界に差別や迫害が持ち込まれることとなった。同性愛がその代表例であるが、人格障害を含めた精神疾患とされているもの全般について同じことが言える。その点、血液型性格診断とも酷似している。また、書店に溢れる心理学や精神医学関係の類書が、一般の人に危うい読まれ方をされているのも事実である。素人が聞きかじりの知識で周囲の人を診断してしまうなど、差別や偏見を広めている面もあるからである。その一例が、M・スコット・ペックの『平気でうそをつく人たち~虚偽と邪悪の心理学~』(草思社 1996年)である。雑誌『諸君』(文藝春秋 1997年8月号)は『「平気でうそをつく人たち」の危ない読まれ方』と題して、その危険性を批判した。
治療 [編集]
治療(人格障害は一種の「性格」であるとも言えることから、「治療」と呼んでいいものか、という意見もある)は、精神分析的精神療法や認知行動療法などの精神療法を中心にして行われる。薬物療法は、合併しているI軸の精神障害の治療や精神症状に対する対症療法として補助的に用いられる。器質性の脳障害に端を発する症状の可能性を含め、治療は基本、多角的に行われる。
一部の人格障害は、30~40歳代までに状態が改善していく傾向(晩熟現象)があるとされている。それは加齢による生理的な物の影響だけではなく、仕事等の社会生活を通じて多様な人々に触れ、世の中には様々な生き方・考え方があると言うことを知り、それを受容する事に依っていると考えられている。
脚注 [編集]
- ^ 精神医学関連の書籍では、18歳未満の患者に対しては人格障害の診断ができないと書かれていることが多いが、DSMでは反社会性人格障害を除いて、一定の条件を満たせば診断を認めているため、実際には可能である。ただし、人格障害は一般社会のみならず、専門家の間においてもスティグマの強いことから、青少年に対する診断を躊躇する精神科医は多い
- ^ 人格障害には過剰診断の傾向があり、若年世代のうつ病を人格障害と誤診してしまうケースが相次いでいる。そのためか、2002年に発行された『American Journal of Psychiatry』では、抑うつ状態の患者に対する人格障害の確定診断は余り行わない方が良いとする意見が出ている。