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ロー・スクール (アメリカ合衆国)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロー・スクール(Law school)とは、アメリカ合衆国における法曹教育機関である。アメリカにおける法科大学院。通常、学士の学位を取得した上で入学するプロフェッショナルスクールとして位置づけられ、留学生などを除くと3年間のカリキュラムが一般的である。
概要(カリキュラム・学位) [編集]
アメリカ合衆国のロー・スクールは、主として、アメリカ合衆国内の一般の学生を中心とする「JD」(修了すると、ジュリス・ドクター(Juris Doctor)の学位が与えられる)の課程の学生と、合衆国外からの留学生等を中心とする「LL.M.」(修了すると、マスター・オブ・ロー(Master of Laws)の学位が与えられる)の課程の学生で構成されている。日本人の留学生はLL.M.の課程に入学することがほとんどであるが、アメリカ合衆国において「ロー・スクール」という場合には、一般的にはJ.D.の課程が念頭に置かれている。例えば、ロー・スクールに入学を希望する学生は、各種メディアが公表しているロー・スクールのランキングを参考にする場合が多いが、その際のランキングはJ.D.の課程を評価したものである。
J.D.とLL.M.の構成比率は、各ロー・スクールによって異なり、LL.M.が極めて少数のロー・スクールもある。また、後述のように、ロースクールによっては、「M.C.L.又はM.C.J.(比較法修士)」等の他の学位取得のためのコースが別途存在し、さらに、合衆国外の各国から招聘された法学者の研究員(Visiting Scholar)や公官庁及び企業からの派遣者、提携大学における単位交換留学生等も授業等に参加している場合もある。
主要ロー・スクールにおいてJ.D.の学位を取得すれば、アメリカ合衆国の各州の司法試験受験資格が得られる。J.D.課程を修了した学生は、いずれかの州の司法試験を受験して、弁護士等の法曹の道に進むのがほとんどである。
J.D.課程 [編集]
メディカル・スクール(日本の医学部に相当)やビジネス・スクール(経済・経営学大学院)と同様に、学部卒業者を対象とする専門職養成大学院(プロフェッショナル・スクール)として設置されている。教育年限は通常3年で、修了者にはジュリス・ドクター(Juris Doctor:JD)の学位が与えられる。この学位は、元来LL.B.(bachelor of laws;法学士)と呼ばれていたものを名称変更したものである。
アメリカ合衆国における大学には、一部限定された範囲で法律を中心に教育する学部はあるものの、日本の法学部に相当する課程は存在しない。したがって、ロー・スクールのJD課程に入学する学生の学部段階("undergraduate"と呼ばれる)における専攻科目は様々であり(経済学、政治学、物理学、心理学、神経科学等々)、通常は、ロー・スクールに入学後に初めて学問としての法律に触れることとなる。学部を卒業後、そのままロー・スクールに進学する学生もいるが、学部卒業後に数年の勤務経験を経てから入学する学生も多い。これは、ロー・スクールの学費が極めて高額であることも関係している。このように、JD課程の学生は20歳代前半から後半にかけての学生が大半であるが、一方で、既に法曹以外の分野で長年経験を積んできた者が、転身してロー・スクールに入学する場合もしばしば見られ、学生のバックグランドは多様である。
JD課程に入学するためには、学部段階における成績(GPA)に加え、LSAC (Law School Admission Council) により全米で統一して実施されるLSATを受験する必要がある。いわゆる「トップスクール」に入学するためには、学部段階及びLSATにおいて好成績を取得しなければならない。
LL.M.課程その他 [編集]
J.D.を取得した者やアメリカ合衆国外でJDに相当する法律教育を受けた者を対象として、LL.M.(Master of Laws, 法学修士)コースを設置しているロー・スクールが多い。LL.M.コースは通常1年間の課程である。LL.M.コースの中には、例えば税法等の専門分野に定評があり、J.D.を取得したアメリカ人学生を中心に教育するところもあるが、多くのロー・スクールにおいては、LL.M.コースは外国で法学教育を受けた者を主たる対象としている。
外国の学生がLL.Mコースに入学するためには、本国で最初の法学教育を修了していることが必要であり、それらの教育機関の教員等からの推薦状が求められる。日本からの留学生の場合、この要件は、日本の大学の法学部または法科大学院(法学部や法科大学院を修了せずに法曹資格を得た者については司法研修所)を修了したことにより満たされる。また、英語を母国語としない入学希望者は、ロー・スクールが定める一定の基準を超えるTOEFLのスコア(多くはPBT600点、CBT250点、一部ではPBT620点、CBT260点)を取得することが要求されている。
日本人がロー・スクールに留学する場合、LL.M.コースに入学することがほとんどであり、日本の弁護士資格を有する者、裁判所・検察庁を含む官公庁からの派遣公務員、日本の大手企業の法務部門の担当者等が目立つ。
その他の学位 [編集]
修士の学位をロー・スクールによっては比較法修士(Master of Comparative Law (M.C.L.)、またはMaster of Comparative Jurisprudence (M.C.J.))としているところもある。また、LL.M.修了者を対象とした法学博士(Doctor of Juridical Science (S.J.D.、またはJ.S.D.))もあるが、これに進学する者は稀である。S.J.D.との混乱を避けるために、上記ジュリス・ドクターは通常「法学博士」とは翻訳されない。
ロー・スクールの授業 [編集]
ロー・スクールのほとんどの授業では、ケースブック(Casebook)と呼ばれる分厚い判例集が指定され、その内容に沿って授業が進められている。ケースブックの内容は様々であるが、その多くは、法律についての簡単な解説がなされた後に、当該法律に関連するケース(判例)の判決文がそのまま掲載されており、絵や図表等の付加や詳細な解説はほとんどなく、延々と判決原文が続くというものである。主要科目のケースブックは、概ね1,000ページ前後にも及び、古典的な堅牢な装丁と併せて重厚な書物である場合が多い。教授によって進度の違いはあるが、学生はこのケースブックを1科目につき週あたり平均40ページから100ページ程度を事前に読んで授業に臨むよう求められる。
授業における教授のスタイルも、学生と教授間での質疑・対話による進行(ソクラテス・メソッドなどと呼ばれる)を徹底して用いる教授から、教授が主に内容を解説するレクチャー方式を採用する教授など各教授あるいは学部・科目の内容に応じて様々である。一般に、教授が授業中に学生を指名して問いを投げかけたり、学生が挙手して教授に質問したりする等の頻度は高く、そのようなやり取りにおける積極性・内容を高く評価する評価システムがとられていることが多い。
成績評価など [編集]
ロー・スクール卒業者の絶対数が多いため、単に学位を得たことのみならず、学校の評判や在学中の成績が卒業生の将来に影響する。JD過程に所属する多くの学生は、1年目から就職活動を開始する。アメリカ合衆国のロー・ファームは一般に、通常、契約法(contract)、憲法(constitutional law)等の基礎科目が組まれる1年次の学生の成績を選考の材料としている。そこで、大手ないしは著名ロー・ファームへの就職を目指す学生を中心として、1年目に優秀な成績を収めようと必死に努力するため、特にJD課程の1年目は過酷な競争となる。JD課程の学生は、1年次、2年次の夏休み期間(通常、学期は9月開始、5月終了となる)にローファームなどでインターンを行うが、優秀な学生は、大手ロー・ファームにサマー・クラークとして勤務し、そのまま同じファームに就職するという場合もある。
ロー・スクールの2年目、3年目では、比較的専門性の高い科目がカリキュラムとして組まれており、学生はそれぞれ進路によって科目を選択することとなる。この時点では、既に就職先の決まった学生も多いため、1年目に比べれば多少のゆとりがある。もっとも、例えば大手ロー・ファームでのパートナー弁護士を目指す学生は、ロー・スクールで成績上位者に与えられる賞を取得することが1つのステータスとなるため、優秀な成績を収めるために昼夜努力している。
ローレビューの編集委員 [編集]
1年次の成績優秀者から、大学出版の法律雑誌(ロー・レビュー)の編集委員が選ばれる。編集委員の制度は各大学に共通して見られるもので法曹関係者を中心にその存在の認識度は高く、有名大学の編集委員であったという実績は、学生時代の優秀さを示すキャリアとして高く評価されるため、編集委員をめぐる競争は極めて激しい。アメリカにおける州最高裁判所調査官は、ロー・スクールを出身したばかりの法曹が1年交代で務めるのが通例であるが、その調査官も通常は有名大学の編集委員経験者から選ばれる。
各州の司法試験 [編集]
アメリカ法曹協会(ABA)認定のロー・スクールと、非認定のロー・スクールがあり、通常、アメリカ合衆国の各州の司法試験を受験するためには、認定校のJD取得者であることが必要とされる。カリフォルニア州では例外的に非認定校の卒業生にも受験を認めている。また、非認定のロースクール卒業生が一定期間弁護士事務所等で法律実務の経験を積む事で司法試験の受験資格を得られる州もある。
LL.M.を取得した外国人は、ニューヨーク州やカリフォルニア州など、いくつかの州で司法試験の受験資格を得ることが可能である。このため、ニューヨーク以外の州にある大学のロー・スクールのLL.M.を取得した場合でも、ニューヨーク州の司法試験を受験して、同州の弁護士資格を取得することが多い。現在では、日本とニューヨーク州の弁護士資格双方を有する者の数が年々増加している。
LL.M.の資格は、アメリカの大学の日本校が提供しているプログラムにより取得することが可能となっている。この中には、テンプル大学ジャパンキャンパスのロー・スクールプログラムなどが挙げられる。