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密造酒
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
密造酒(みつぞうしゅ)とは、政府等の公的機関の許可を得ないで製造されたアルコール飲料の総称である。本来、酒税の課税対象であるアルコール飲料を無許可で製造するため、大抵の近代国家では、税制度への依存度が高まるにつれ、これら密造酒製造には厳罰が科せられる傾向が強い。
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概要 [編集]
近代国家の成立において、税制は国家経済の基礎となるが、特に嗜好性の強い酒類は、多くの国家で課税対象にされた。しかししばしば課税額の設定が高過ぎるため、一般の家庭や地方コミュニティー等で自家消費する酒類の製造を、中央の政府に許可を得ずに行う事が横行した。
近代ヨーロッパ史において、酒造の歴史は往々にして密造酒の歴史と重なる事が多い。君主政治下においては王侯・貴族が政治を私物化することもままあったが、この中では自身の生活でより贅を尽くすため、酒税を始めとする嗜好品には重税を科すことも行われた。また戦争という国家の沽券をかけた事業には莫大な経費がかかったが、酒税は近世において大衆から資金を広く徴収するには「非常に便利の良い」口実ともなった。これらの事情により、特に酩酊しやすい蒸留酒ほど、より高額な税収が期待され、また高い酒税率が設定された。そのため、こういった課税を回避するために秘密裏に作られた密造酒の多くが蒸留酒である。
これら密造酒は往々にして製造者がいい加減に作っている事が多いため、衛生的ではなかったり、飲用に適さない成分が含まれている事もある。しかしちょっとした知識と入手しやすい道具で、家庭で簡単に製造できる部分もあるため、しばしば製造され、自家消費は絶えないとされている。家庭内で製造される物に関しては、滅多に露見する事も無いため、一向に摘発が進まないのも、この問題に根強く絡む部分である。
日本に於ける密造 [編集]
税務署からの免許がない状態でのアルコール分を1%以上含む酒類の製造は、酒税法で禁止されている。酒税法第54条には罰則規定があり、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられると同時に、製造された酒類、酒母、もろみ、原料、副産物、機械、器具又は容器が所有者の如何に関わらず没収可能な規定がある。免許を交付されるためには、一定以上の量を製造しなければならないが、清酒やビールなどは60キロリットル以上、ウイスキーや果実酒など少ないものでも6キロリットル以上を製造せねばならず、個人が家庭で製造することは事実上不可能である。ただし例外で黙認されている地域もある(青ヶ島村など)。また農業学校(高校・大学)のそれは量産しない「醸造試験所」扱いの例外である。
酒に水以外のものを混和する場合も違法であるが、家庭や飲食店で酒に消費の直前に酒を混ぜること(カクテルなど)や自家消費用に20度以上の酒に酒以外のもので以下に挙げるものを混和しない場合に、混和後アルコールが新たに1度以上発酵しない場合に認められている。(酒税法施行令(昭和三十七年三月三十一日政令第九十七号)第50条第10項第2号及び酒税法施行規則(昭和三十七年三月三十一日大蔵省令第二十六号)第13条第3項)つまり、自家製の梅酒などがこれに当たる。
- 一 米、麦、あわ、とうもろこし、こうりやん、きび、ひえ若しくはでんぷん又はこれらのこうじ
- 二 ぶどう(やまぶどうを含む。)
- 三 アミノ酸若しくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物若しくはその塩類、有機酸若しくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類のかす
ぶどうの混和が認められていないのは、ブドウ果実自体に含まれる強力な酵素が新たなアルコール発酵を促してしまい、リキュールの度数が上昇するためであるとされている。 しかし実情は、ぶどう由来の成分により税区分がリキュールのものからワインのものに適用されることによる。税率の差分によりいわば脱税が発生するため、ぶどうの混和が認められないのである。
同様の理由により、一に示される穀類の混和が禁止されている。
なお2008年4月30日から、一定の要件の下に、免許がなくとも旅館や飲食店等も梅酒等が出せる特例措置が設けられた。適用を受けるためには税務署へ特例適用の申請を行う必要がある[1]。
密造酒の例 [編集]
- ウィスキー
- 樽詰前のウイスキーは、穀物を発酵させて作る、僅かに麦芽乾燥に用いた燃料の香りがするだけの蒸留酒(スピリッツと呼ばれる)だが、古くはこのスピリッツを直接飲用していた。しかし密造酒ともなると、大っぴらに販売する事はおろか、それと判る状態で街道を使って運搬するだけでも摘発される危険性があったため、しばしば酒税の安い酒精強化ワインであるシェリー酒の樽に入れて運搬された。また摘発を逃れるため、何年も各地に点在した洞窟に隠される事も多く、幸か不幸かシェリー樽に詰められたスピリッツは熟成され、現在のスコッチ・ウイスキーが完成された。
- 禁酒法
- これとは別にアメリカでは、1851年から段階をおって全米各地で施行された禁酒法により、酒類の製造・運搬・販売が禁止されたが、逆に酒類の密売に加え粗悪な密造酒が横行し、アル・カポネを始めとするギャング集団が大々的な密造酒の製造と密売で巨額の富を手中にするといった、芳しくない社会現象が発生した。この時、製造・密売されていたのは通称バスタブ・ジンと呼ばれる蒸留酒で、風呂桶に水を張って手製の蒸留器を沈め、これを使って蒸留された。これらの製造過程はお世辞にも衛生的とは言えず、また医薬用のメチルアルコールが混入した物まで出回るようになり、健康被害を受ける人や1,500人を超える死者が出て問題となった。禁酒法自体もその実としてざる法で、密造業者らは捕まってもすぐに釈放されていたという。
- どぶろく
- どぶろく(濁酒)は清酒発生以前の、米を使った素朴な酒類で、一般家庭でも米を炊いた飯と水と麹があれば、誰にでも簡単に作る事が出来る。日本では明治時代に政府が、税収の3割にのぼる酒税の徴収を行うため、酒税法によって清酒の生産を厳しく管理した。しかし農村部(特に秋田県北部などの東北地方)では日常的にこれらどぶろくが作られ、家庭内で消費されていたという。この摘発が難しい家庭内のどぶろく作りは昭和中庸まで続き、現代に至っては「どうせ取り締まれないんだし、酒税徴収も税収のほんの一部に過ぎず、しかも洗練された清酒に比べたらだいぶ味わいの劣る家庭生産のどぶろくが今更酒造業界に打撃を与えるとも考えられず、これらに関しては解禁すべきではないか?」とする議論も興っている。これには欧州などの自家生産ビールやワインが、広く農村部などで自由に愛飲されている事もあり、同種の商業主義に寄らない家庭で消費される酒類の扱いが議論の的となっている。